「たしかに、法律に照らせば安全配慮義務違反です。でも・・・」
2015/07/14
こんにちは。社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。この1ヵ月、障害者バスケを舞台としたコミックの13巻にすっかりはまっています。すでにこの巻だけ20回は読み、ついにすべての場面やセリフがすぐに目の前に浮かぶようになってしまいました・・・。
さて、最近私たちの事務所内では「労災と安全配慮義務違反による損害賠償請求」について、勉強会を行ったところです。
ただ、この法律を目の前にするときに私には決まって思い出す12年前の出来事があり、理屈では割り切れない感情にとらわれます。
「なにも心配するな」
自動車部品を修理・加工しているお客様の会社において、労災事故が発生したときのことです。ケガをした方は機械の間に指を挟んでしまい、左手の小指を第二関節のところで切断してしまったのです。連絡を受けた私は、さっそく労災の請求の準備を行いました。
何日か経ってから、社長とご本人と、そして私で面談をしました。「労災からどういったお金がいつどれぐらい出るのか」をお伝えするためです。
そのとき社長はご本人にこう伝えていました。
「労災からお金が出るまでの期間、会社がお金を貸すから、なにも心配するな。ケガが良くなったらまたうちで働けばいいんだ」と。
ご本人は社長の言葉に感極まったご様子で涙を流されていました。私は、ああ、男泣きに泣くとはこういうことなんだろうと思いながら、言葉では言い表しがたいその場の雰囲気の中にいました。
「これからどうしたらいいんですか」
しかし、それから1ヶ月も立たないうちのこと。ご本人が、会社に損害賠償請求をしてきたのです。
会社は機械の取扱いに十分な教育をせずに、自分に機械を扱わせた。それが自分がケガをした原因である。そのため400万円を支払ってほしい。
というものでした。
すっかり会社とご本人の関係が険悪なものとなってしまいましたが、その後に労災の休業と障害の13級の請求が完了し、私からご自宅にそのご報告のお電話をしました。
電話口に出られた奥様の声は終始沈んでおり、途中から涙声になってしまいました。
「少しばかりのお金が出たからって、小指がない人をどこの会社で雇ってくれるって言うんですか。子供が生まれたばかりでこれからどうしたらいいんですか」
そして、その電話の向こうからは、赤ちゃんの泣き声が響き渡っていました。
たしかに、安全配慮義務違反です。
労災の請求が完了したことをお伝えすれば、少しは安心していただけるに違いない、という私の思い込みは、将来の不安にとらわれている人の前ではなんと浅いものであったのか。その電話で、私は何も言葉を返すことができませんでした。
その後、損害賠償については双方が弁護士さんをたて、やがて会社が250万円を支払うことで和解となりました。もちろん、その方は退職をしていきました。
たしかに、機械の操作について十分な教育をしなかった会社は、法律に照らせば安全配慮義務違反です。
でも、「良くなったらまたうちで働けばいいんだ」という社長の言葉は、法律や義務からではなく、人の気持ちから出た裏表のないものであったはずです。
あの言葉を信じてほしかったという気持ちとともに、泣きながら訴えられる奥様の声や、賠償請求の書面を見る社長の無念の表情を、今でも私は思い出します。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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