副業を行った正社員には、どのような処分が必要でしょうか?
2016/03/20
こんにちは。東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。
2016年2月に、民間転職支援会社の運営サイトの利用者4,223人を対象として行った調査では「現在、副業を行っている」との回答は全体の17%だったそうです。「過去に副業を経験したことがある」「経験はないが興味はある」といった回答もあわせると、全体の8割となりました。
現在、多くの会社では正社員の副業を禁止していますが、それでも社員が副業を行っている可能性は大いにあります。それでは、会社が禁止しているにもかかわらず、副業を行った社員への対応と処分はどうすればよいのでしょうか?
副業が行われていた場合の対応のステップ
社員の副業を発見した場合には、会社は次のステップで対応を検討する必要があります。
1.就業規則が周知されているか?
まず大前提として、就業規則内に「副業禁止規定」があり、それに応じた「懲戒事由」が定められていなければ、社員を処分することはできません。また、会社には就業規則の周知義務があります。そのため、副業禁止規定の内容が従業員に事前に周知されていなければ、やはり処分することができません。
2.事実確認を行なう
社員の副業を発見した場合は、会社が本人に対して事実確認を行います。他の従業員からの又聞き、あるいは第三者が作成した報告書だけを見て確認を終わらせてはいけません。その際の確認事項としては、「副業先の就業頻度」「目的や背景」「本業への影響」などが挙げられます。
3.処分を検討する
事実確認の結果を、就業規則と照らし合わせて処分を決定します。処分内容は、「口頭注意」「始末書」「減給」「降格」「解雇」などとなります。
副業を理由とした解雇処分は、無効となることも
ただし、処分のなかでも「解雇」については慎重に考える必要があります。なぜなら、就業規則で副業を禁止していたとしても、その「合理性」が認められなければ、無効となってしまうからです。無効となれば、金銭の補償はもちろん、解決するために莫大な時間がかかることになってしまいます。
ここでは、副業を理由に社員を解雇処分したものの、それが無効となった裁判例を2つご紹介いたします。
【裁判例1】
貨物運送業の会社において、社員が勤務時間中に荷物積み込み等のアルバイトを行ったことを理由とする懲戒解雇処分。(東京地裁平成13.6.5)
◇解雇が無効となった理由◇
*会社が社員に対する就業規則の周知義務を怠っていた。
*会社は事実確認を行うにあたり、直接本人への確認が無いまま処分を下した。つまり、処分が十分な根拠に基づいていなかった。
*この副業は年間1~2回程度であり、業務に支障をきたしていなかった。そのため、「職務専念義務違反」にはあたらないと判断された。
【裁判例2】
写植印字印刷会社の写植工が、病気欠勤中に元同僚が設立した競合の会社に数回遊びに行き、その際に写植作業を手伝い、報酬を得ていた事を理由とする懲戒解雇。(東京地裁昭和59.2.28)
◇解雇が無効となった理由◇
*極めて軽率ではあるが、常勤として仕事をしていたわけではなかった。
*競合会社における副業ではあったが、この写真工は、自社の機密情報を保持するような役職に就いていなかった。
ここで見たとおり、会社が副業を行った社員の懲戒処分をするには、本人への事実確認や就業規則の周知が大前提となります。就業規則の内容を見直し、そのうえで副業の頻度や程度を考慮し、慎重に対応をしていく必要があります。
しかし、もしも「うちの社員や従業員に副業をしてほしくない!」と真剣に思うのであれば、ぜひ就業規則だけに頼らないでください。就業規則とは、労務管理のツールの一つに過ぎません。こと副業防止に限って言えば、就業規則が必要なくなることが理想です。
組織を束ねる立場の人が、社員一人ひとりと、お互いに腹を割って理解し合うことで「この会社のために、ここ一本で頑張るぞ!」と思っていただく。そのようなマネジメントこそが、最大の副業防止策ではないでしょうか。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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