《徹底解説》従業員の「懲戒処分」に踏み切るときは。 -第3回-(全3回)
2016/11/20
こんにちは。東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンの濵中(はまなか)です。最近、生後5ヶ月になる娘がよく笑うようになってきました。日々成長していることを実感すると同時に、早く大きくなって一緒にデートをしたい・・・と妄想する今日この頃です。
さて、今回は従業員を懲戒処分するまでのプロセスを全3回にわたって解説していく記事の最終「第3回」となります。
前回までの記事に掲載しているとおり、会社のリスクを極力排除した懲戒処分のプロセスは次のとおりです。
不祥事の発生
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①事実関係の調査
▽
②懲戒処分の検討
▽
③就業規則における所定の手続き
▽
④懲戒処分の内容の決定
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懲戒処分
このうち、第2回までの記事で①②③まで解説いたしましたので、今回の記事は「④懲戒処分の内容の決定」についてです。
「④懲戒処分の内容の決定」とは
前回までのプロセスにおいて、「事実関係の調査」や「処分の重さを決めるにあたって考慮すべき事情の精査」を実施してきました。そのうえで、最終的な懲戒処分の内容を決定するのがこのプロセスになります。
今までの調査で得た情報をもとに「懲戒処分が妥当」ということになれば、最後にどの懲戒処分を適用するかの判断が求められます。始末書の提出なのか、減給なのか、あるいは懲戒解雇なのか・・・。なぜその処分となったのかを客観的に説明するためにも、さまざまな角度から判断しなければなりません。そのためのチェックポイントが次のものとなります。
懲戒処分を実行する前の最終チェックシート
懲戒処分の内容が決定した時点で、次のチェックシートを使って、その最終的な実施の判断をしましょう。
Ⅰ 懲戒処分一般についてのチェックポイント
□懲戒の対象となる行為を明確に特定できているか
□懲戒処分の対象とされた事情は、就業規則に懲戒解雇の対象行為として明記されているか
□今回の懲戒処分の対象と考えている行為につき、過去に懲戒処分がなされたことはないか
□当該の懲戒対象の行為によりどのような影響があったか
□当該の懲戒対象の行為が発覚してから間が空きすぎていないか
□(職場外の非違行為を理由とする場合は)当該の非違行為により職場秩序が具体的に乱されたといえるか、あるいは当該の非違行為により企業の名誉、信用が失墜したといえるか
□対象者の過去の処分歴はどのようなものであるか
□対象者と同様の非違行為を行っている者はいないか
□対象者と同様の非違行為を行っている者についても、懲戒処分がなされているか
□今回考えている懲戒処分と同様の処分をした実績があるのであれば、そこで処分の対象となった行為と今回の行為との間の均衡は図られているか
□対象者の反省や示談、弁償の状況はどうか
□懲戒処分をするにつき、就業規則や対象者に適用される労働協約に手続きが定められていないか。定められている場合、その手続きがふまれているか。
さて、実はこの中でも特に重要なのが「懲戒処分の対象とされた事情は、就業規則に懲戒解雇の対象行為として明記されているか」なのです。
例えば、人に暴力をふるって怪我をさせた場合、その人は罰を受けることになります。それは、刑法という法律に傷害罪が規定されており、それに違反した場合は罰を受けることが規定されているためです。
それと同じように、会社の法律である就業規則に、やってはいけないこと、またそれをすることによってどのような罰があるのか、がそれぞれ規定されていなければ、懲戒処分の根拠がないとみなされてもおかしくありません。
「懲戒解雇」を実施する場合のチェックシート
懲戒処分のなかでも、特に「懲戒解雇」を実施する場合には上記の「Ⅰ 懲戒処分一般についてのチェックポイント」に加えて、次のポイントも確認する必要があります。
Ⅱ懲戒解雇をするに当たってのチェックポイント
(1)解雇一般のチェックポイント
□法令による解雇制限に抵触しないか
□解雇の効力発生日はいつか
□解雇予告義務は尽くされているか、あるいは除外認定を得ているか
□(求めがあった場合は)解雇理由書は交付しているか
□解雇理由書には、どのような解雇理由を記載したか
□(対象者が労働組合員である場合)不当労働行為とみられる余地はないか
(2)懲戒解雇特有のチェックポイント
□対象者が受入出向者など、懲戒解雇をなし得ない者ではないか
□対象者にとってあらゆる有利な事情を勘案しても、懲戒解雇しか選択し得ないほどの非行行為といえるか
□(退職金を全額不支給とするのであれば)その旨の根拠規定があるか
□(退職金を全額不支給とするのであれば)過去の勤続の功のすべてを抹消させるほどの非行行為といえるか
□諭旨解雇とする場合は、懲戒解雇としての相当性も具備しているといえるか
□懲戒解雇としては重きにすぎると判断される場合、普通解雇とする余地はあるか
懲戒解雇は、社会人にとっては一生消えない傷になります。それゆえに、処分は慎重にする必要があります。少なくとも、このチェックポイントの内容をすべてクリアした状態でなければ、懲戒解雇には慎重になるべきです。
今回の記事は、懲戒処分の最終プロセスである「④懲戒処分の内容の決定」について解説いたしました。
さて、懲戒処分についてここまで3回の記事に分けてお伝えしましたが「ひとつの懲戒処分を判断するために、ここまでのことを会社がしなければいけないのか」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、「懲戒処分」=「人に罰を与える」ということです。与えられる側の従業員にとっては、その懲戒処分を受けた結果、その後の人生が大きく変わってしまう可能性も十分にあります。それゆえ、一時的な感情や、独断での判断を避けて、慎重に検討をしていく必要があります。そして、懲戒処分の是非については裁判に発展するケースもよく見受けられます。そうなれば、会社は莫大な時間とコストを負担することとなります。
そのようなことを防ぐためにも、このシリーズでお伝えしてきた流れを参考にしていただき、なるべく客観性のある対処をご検討ください。
社会保険労務士法人アールワン 濵中 伸介(はまなかしんすけ)
お客様との「関係性」の構築を大切に考えています。私たちのやることが企業やそこで働く従業員の成長・発展に繋がるよう日々奮闘しています。趣味はランニングとミスチル、それとお酒を飲みながら人と会話をすることです。みなさん、よろしければお声掛けください!
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