社員の副業を認める会社が、知っておくべき3つのリスクとは?
2017/06/10
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。自宅テレビが故障して、画面半分が黒くなってしまってから早3年、ようやく買い換える気になり、家電量販店に下見に行きました。そこで初めて知った4Kというテレビの鮮明さに見とれて、そのまま帰ってきました・・・。
さて、政府は働き方改革の一環として、企業で働く社員の「兼業・副業」をさらに普及拡大するためのガイドラインを作成する方針が決まっています。社員の副業を認める企業が増えれば、人口減少による人手不足の防止や高齢者の再就職に有効である、というのがその主な理由です。
ただし、企業が従業員の副業を認める場合には、割増賃金や労災保険などにかかわるリスクがあるということはご存じでしょうか?今回の記事ではそのポイントをまとめていますので、「すでに副業を認めている」という会社のかたであっても、改めて見落としが無いか確認をしてみてください。
※なお、「兼業」「副業」ともに法律で定義されている言葉ではありませんので、この記事では、以下「副業」で統一します。また、この記事における副業とは「別の会社に勤務をした場合」を前提とします。(自営業や、企業からの業務委託で仕事を行うケースは含みません)
1.副業をした場合の、割増賃金の支払義務は?
※この記事は2017年6月時点のものですが、2018年2月に厚生労働省より支払い義務についての新しいガイドラインが発表されています。詳しくは次の新しい記事をご覧ください。
労働基準法第38条では
「労働時間は事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」
とされています。そして、この「事業場を異にする場合」とは、「事業主を異にする場合」も含みます。つまり複数の会社で同時に働いている場合、労働時間はその合計で考える、ということです。
そのため、2社以上の事業主に雇用されて、その通算した労働時間が1日8時間を超える場合または週40時間を超える場合には、割増賃金が支払われる必要があります。
さて、その場合、割増賃金の支払い義務はどちらの会社に発生するのでしょうか?
実は、これには2説があるのです。
①「雇用契約をあとに締結した会社が負う」とする考え 【労基法コンメンタール】
②「同じ日のなかで、あとで働いたほうの会社に支払い義務がある」とする考え 【労基法通達】
たとえば、A社に社員として勤務する人が、A社に出勤する前にB社で副業の勤務をするとします。この場合、①の考えによれば支払い義務はB社となりますが、②の考えではA社となってしまうのです。
(政府が副業の普及拡大を進めていくにあたっては、今後ぜひこの点がクリアになってほしいと思います・・・)
それに加え、実際に対応していくためには、本業と副業の両方の労働時間を把握しなければなりません。つまり、副業先あるいは本人から、副業時の労働時間の報告をしてもらう必要があるのです。
このように実際の運用がかなり難しいことはたしかですが、そのうえで会社としては社員の副業を認める場合には「弊社の勤務時間が終了した後に限って副業は許可する」という規定を定めておくことで割増賃金の支払リスクを回避することが考えらえます。
2. 労災保険はどのように適用されるのか?
たとえばA社の社員が、A社の就業後に副業先のB社に向かう途中でケガをしてしまったとします。その場合には、B社の労災保険が適用となります。
また、そこでもしも休業が必要となるケガをしてしまった場合には、B社で支給されている賃金額を元に、休業補償給付の金額が算定されます。そのため、副業先のB社に向かう途中(もしくはB社から帰宅する場合)の業務災害や通勤災害が原因で休業する場合には、生活のための十分な補償を得ることができないという可能性があります。(一般的に、副業先のほうが給与額は低いことが多いため)
【例】A社で「30万円」、B社(副業先)で「8万円」の給与が支給されていて、B社に向かう途中のケガが原因でA社・B社を休業した場合
⇒ 副業先B社の「8万円」に対し、休業補償給付が支給されます。
あとから「そんなことは知らなかった」となればトラブルにもつながりかねませんので、副業の申請を行ってきた社員には、この内容をしっかりと伝えておくべきでしょう。
3.オーバーワークで社員の健康状態が悪化したら?
長時間労働によって労働者の健康上の障害が生じた場合には、会社の安全(健康)配慮義務違反の問題が生じる恐れがあります。そのときに、会社が二重就労を認めていて、それが長時間労働による労災と認定されれば、本業の会社、副業の会社のいずれにも損害賠償責任が発生することもありえます。
そこでそのようなことが起きないよう、会社は次の2点を把握しておく必要があります。
(1)対象者の労働時間と休日の取得状況
※一定期間ごとに「副業先での労働時間の報告」や「休日の取得状況(法定休日が確保されているか)」といった確認が必要です。
(2)対象者の健康状態
副業を行ったことで、健康不調が発生し、本業の就労に影響が出るということは避けたいところです。副業の許可をする場合には、「しっかりと休日をとる」ということも条件に設定すべきです。
さて、ここまで副業にともなって発生しうるさまざまなリスクをお伝えいたしました。そのいっぽうで、社員が副業を行うメリットとしては、普段と異なる環境において新たな価値観を知ったり、社外の人脈が広がったり、見聞の広がりにつながるなどといったこともあるでしょう。また、社外の環境に身を置くことで今の自分のスキルや能力を客観的に測ることができる、という点も大きいはずです。
この記事でお伝えしたリスクと、広い意味での人材育成につながるという期待とを天秤にかけたうえで、自社の副業の可否について一度は社内で協議・検討してみてはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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