その助成金は、はたして自社の方針に沿ったものでしょうか?
2017/10/30
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。社員がすすめてくれた小説の中古をネット購入したところ、届いた本はまるで新品のようでなんだかうれしい気分に。内容もたいへん面白く、電車を乗り越しそうになりながらも、ささやかな幸せにひたっています。
最近、当事務所ではお客様より助成金申請のご依頼を受けることが多くなっており、私もつい先日、スタッフが作成した進行管理表をチェックしていました。申請業務の進行において大切なのは期日管理で、「何をいつまでに」がひと目でわかるのはもちろん、お客様への書類のご依頼も期日に余裕を持たせるなど細かい配慮が必要です。
しかし、じつは期日の管理以上に助成金の申請において忘れてはいけない大事なことがあります。それは、以前にお客様の助成金申請で私が実際に経験したことから気づいたものです。
「助成金を返したい」という一本の電話
あれはたしか、12年ほど前のことだったと思います。ある日、お客様である製造業の会社の社長からお電話をいただきました。
「前社長の時に受け取った定年の助成金って返金できないかなあ」
とのこと。(えっ・・・、受け取った助成金を返したい!?)それまで耳にしたことのないご要望に、いったい何の事態かと驚きました。
ちなみに、その助成金とは「定年後の再雇用」に関わるものでした。その当時はまだ「65歳までの雇用は努力義務」でしたが、こちらの会社は「本人が希望した場合は、定年の60歳後も65歳まで再雇用をする」と就業規則に定めたことによって、助成金を過去に受給していた経緯がありました。(1年あたり150万円の助成金を5年間で、合計750万円です)
そこでよくよく社長のお話を伺ったところ、返金のご要望の背景には「60歳後に再雇用をする人を会社が選択できるようにしたい」という意図があったのです。
法改正による「義務化」が決まった現状
つまり「希望者は誰でもかならず再雇用します」と定めたことによって助成金を受け取ったのだから、その助成金を返金して就業規則も元に戻せば、会社に選択権が戻るであろう、とお考えになられたわけです。
ところが、そのお考えを実現することは難しい状況でした。
そもそも助成金は「国が推進したい路線」に沿って作られるものです。そのため「法改正はすでに決まっていて、改正前からそれにいち早く取り組んだ会社に支給される」というものも多くなっています。今回の件に関しても、そのお電話をいただいた1年後には、高年齢者雇用安定法により「希望者全員を65歳まで再雇用することが義務」となることがすでに決まっていたのです。
そのことをお伝えし、返金や就業規則の再変更を行ったとしても目的が叶えられないことを社長にご理解いただきました。しかし「750万円というお金を返してでも、元に戻したい」ということは、前社長のときはOKでも新社長の経営の方針にはまったく沿わない取り組みだったということです。私から新社長への十分な説明が無いままであったことを反省しました。
すべての助成金には要件があり、申請すればかならず「会社の義務や制限事項」が新たに発生します。それをよく理解したうえで、それは自社の方針に沿ったものであるのかを、慎重に判断する必要があります。単に、条件に該当してお金がもらえるから、書類の準備が簡単だから、というだけで判断すべきものではありません。その判断のための材料を揃え、経営者に丁寧にお伝えしていくことこそが大切な役目であるということを、私はそのときの経験によって強く実感することができました。
と言いつつも、助成金の進行には単純な期日管理も欠かせません。以前にA社とB社の期限をあべこべに把握していて、直前で気がつき(!)なんとか申請を間に合わせたという、冷や汗どころではない経験もあります。そのことも思い出しながら、私は今日もスタッフが作成した進行管理表を延々とチェックしています・・・。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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