賞与の支給回数によって、社会保険料が変わってくる仕組みをご存じですか?
2017/11/10
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの濵中(はまなか)です。
社会保険においては「1年に賞与を4回以上支給する場合には、それは賞与ではなく報酬として月額賃金に加え、それをもとに保険料を計算する」という法律があります。つまり、年間を通じた支給額が同じであっても、賞与の支給回数によって社会保険料が変わってくるということですが、通常であればその差は気にするほどのものではありません。
しかし、例外として「年収762万円以上」の人についてはその差が大きな金額になってきます。そこで今回は、社会保険における賞与の扱いについて説明いたします。
社会保険における「賞与」とは
まず社会保険における「賞与」の定義は、それが「賃金」「給料」「俸給」「手当」「賞与」・・・その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち「年3回以下の支給」のものを指します。(また、労働の対償とみなされない大入り袋や結婚祝金等は、賞与には含まれません)
※ただし、6ヶ月分の定期代をまとめて年2回支給しているような場合は、賞与ではなく、通常の報酬として扱われます。
そして、年4回以上支給されるものであればそれは報酬とみなされ、12分割して通常の給与に加算された金額が標準報酬月額の対象(社会保険料を計算するための基礎金額)とされます。
「年3回以下」の賞与を支給したときの手続きは
年3回以下の賞与を支給した場合には、会社は年金事務所等に賞与支払届を提出する必要があります。
社会保険料は、賞与に発生する社会保険料(労使折半)は、賞与額の1,000円未満を切り捨てた金額に、健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率を掛けて算出します。
例1 – 年3回以内で合計100万円の賞与を支給した場合の社会保険料
※保険料は自己負担分です。また料率はH29.9月時点の全国健康保険協会(東京)管掌のものです。以下同様。
年金事務所は3~4年に一度の頻度で、会社に対して社会保険料に関する届出が正しく提出されているかの調査を行っています。そこで賞与支払届の提出漏れが発覚した場合には、賞与に対する社会保険料をさかのぼって全額納付する必要がありますので漏れがないよう注意が必要です。
「年4回以上」の賞与を支給したときは
賞与が年4回以上支給される場合には、毎年7月に行なう算定基礎手続き時に、7月1日を起算日としてその前1年間に支払われた賞与額の「12分の1」を月額賃金に加算する必要があります。(賞与支払届の提出は不要です)
この記事の最初に「一定の年収以上の人は、賞与の支給回数によって保険料の違いが大きくなる」と書きましたが、その理由は上記の仕組みと「厚生年金保険料の基礎になる標準報酬月額の上限が62万円である」ということです。
つまり、12分割した賞与と月給を合算した賃金の標準報酬月額が62万円(賃金60.5万円~63.5万円)をいくら超えても、厚生年金保険料は変わりません。そのため、賞与をあわせた年収が762万円以上の人にとっては、年3回以下の賞与に個別に保険料が発生するよりも、賞与を月額賃金に加算したほうが保険料が安くなるという仕組みになっているのです。
どれくらい保険料の差がでるのか?
先ほどの計算では、(年3回以内の支給により)計100万円の賞与に発生する社会保険料は「149,300円」でした。それでは同じ100万円の賞与が年4回に分けて支給されると、それによって発生する社会保険料はいくらになるのでしょうか?
例2 – 月額賃金が59万円の従業員に、年4回に分けて計1,000,000円の賞与を支給した場合(賞与をあわせた年収が808万円)
① 月額賃金59万円の年間保険料(賞与なしの場合)
② ①に年間賞与100万円の12分の1を加算した(月額賃金67.3万円)年間保険料
100万円の賞与に対して発生する保険料・・・②-① = 95,376円
つまり、これくらいの収入の人の場合には「100万円の賞与にかかる社会保険料」に、支給回数によって53,924円(=149,300円 – 95,376円)の金額差が出てくるということです。支給額の5%を超える金額差ですから、決して小さな違いとはいえません。
賞与を年4回支給にするメリットと注意点は?
ここまで見てきたように、賞与を年4回(以上)にわけることで、年収762万円以上の人は社会保険料の差が大きくなります(安くなります)。また、「傷病手当金」や「出産手当金」などの健康保険関係の給付金の額が多くなるというメリットもあります。(年3回以下の賞与に発生した健康保険料は、給付金の計算に反映されないためです)
ただし、年4回以上の賞与支給を導入する場合には次の点にご注意ください。
①賞与が年4回支給されることが、就業規則や賃金規程に定められている必要があります。
②「性質が同じ賞与」が年4回支給される必要があります。(たとえば、インセンティブ賞与と夏季賞与など性質が違う賞与はNGです)
③算定や随時改定の際に、賞与額を反映させた賃金で手続きを行う必要があります。
賞与額がほぼ固定されている会社(例えば年収を単純に16分割した金額が賞与額の基礎となっているなど)であれば、年4回賞与の導入が比較的スムーズに進められるでしょう。
今回の記事をふまえていただき、現在「賞与を含めた年収が762万円以上」となる人が多い会社であれば、賞与の支給回数についてぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人アールワン 濵中 伸介(はまなかしんすけ)
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