ちょっとしたことでも不支給に!傷病手当金の実際の請求事例を紹介します。
2018/09/30
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの黒木(くろき)です。週末に少しずつ押入の整理をしているのですが、懐かしいものがたくさん入っているため、どうしても手が止まりがちで、そのつど懐かしさに浸ってしまいます。残すものと捨てるものの分別が悩ましい今日この頃です。
会社を業務外の病気や怪我で4日以上休んだ場合には、生活費補填のために協会けんぽや健康保険組合、共済組合へ傷病手当金の請求をすることができます。その請求時には、病院から「仕事に就くことができない状態」であるという証明をもらわなくてはなりません。
当社も最近「退職したら傷病手当金はもらえないのか?」という問い合わせをいただきました。この場合は「保険組合に1年以上加入していて、なおかつ退職時に傷病手当金を受取っていて、引き続き病院から労務不能の証明が出れば、受け取り始めてから1年半までは大丈夫ですよ」とお伝えして、ご安心いただくことができました。ただし、気をつけておかないと受け取れなくなってしまうケースは他にもあるため、注意が必要です。
そこで今回は、実際に私が経験した中でも印象に残っている「傷病手当金請求の事例」を3つご紹介します。
※傷病手当金は協会けんぽや健康保険組合、共済組合(以降「保険組合」)から給付されるものです。自営業者などの国民健康保険の加入者は対象になりません。
①脳梗塞で倒れた後、退職後の継続給付を申請したAさんの場合
Aさんは、退職後もしばらく「脳梗塞」のため就労できないという証明をX病院でもらっていました。その後にリハビリ専門病院でリハビリを始めたため、リハビリ専門病院で証明してもらった傷病手当金の請求書が届きました。しかし、その傷病名は「脳梗塞」ではなく「右片麻痺」となっていました。
退職後の継続給付の場合は、同じ傷病名でないと傷病手当金が支払われません。そこで私はAさんに連絡をして、X病院にはもう通院していないのかを聞いてみたところ「まだX病院へも通院はしているが、リハビリ専門病院の方が頻繁に行くから」という理由だけで、そこから証明をもらったとのことでした。そこで改めてX病院で「脳梗塞」の傷病名の証明をもらいなおし、Aさんは無事に傷病手当金を受け取ることができました。
②治療の途中で、引越しによる転院をしたBさんの場合
怪我により働けなくなったBさんは、実家に帰って治療を続けることになりました。そのために病院も転院すると事前に聞いていたので、私は「前の病院で就労不能期間を証明してもらうこと」そして「引越し当日のうちに(なるべくなら、引越しの前に)転院予定のY病院で診察を受けたほうがよいこと」を伝えていました。
Bさんは、引越日までの分は転院前の病院で傷病手当金の請求書に証明をもらい、傷病手当金を受け取りました。病院での就労不能期間の証明は「その病院の初診日」より前のことは証明してもらえません。つまり「初診日 = 引越し日もしくはその翌日まで」でないと傷病手当金を1日の空きなく受け取ることは難しくなります。
Bさんは私がお伝えしていたとおりに「引越し日の前」にY病院に診てもらっていたそうです。そのため、1日の空きなく傷病手当金を受取ることができました。
また、このBさんのケースとは別ですが、退職後の継続給付中に引越しをされる人もたくさんいます。その場合、退職後の継続給付中の人は1日でも空きが発生すると、それ以後は傷病手当金を受け取ることができませんのでご注意ください。
③うつ病で休職していたCさんの場合
うつ病で休職していたCさんは、毎月傷病手当金の請求書を提出していました。あるとき、就労不能の証明期間中に1回も診療日がない請求書が届きました。それ以外は特に問題なかったので、そのまま保険組合へ請求したのですが、結果は「不支給」となってしまいました。
その結果に納得がいかなかった私は、保険組合に説明を求めたところ、そのときは「証明期間に1回も診療していないから」という説明だけを受けました。Cさんは「うつ病で外出するのがとても苦痛で、病院へもなかなか行けなかった」とのことです。そこで私は、Cさんの同意を得て、審査請求(保険組合の処分への不服申立て)を行うことにしました。結果は「不支給」のままでしたが、そこでわかったのは、Cさんは処方された薬を飲まないなど、医師の指示に従った生活をしておらず、そのことも理由として保険組合は不支給の判断をしたということです。そして、審査官も不支給は妥当との判断でした。
たしかにCさんも、保険組合からの質問に対しても「医師の指示に従った生活をしていない」ことを認めてしまっていたとのことでした。その不支給の期間以降は、きちんと医師の指示に従って通院もできるようになって、その後の傷病手当金は受け取れるようになりました。
傷病手当金の申請書を病院で証明してもらうには、数千円の費用がかかります。その費用をかけたのにも関わらず傷病手当金を受給することができなければ、休職している方にとっては大きな損失であり、生活の不安にもつながりかねません。傷病手当金は、正しく申請すれば1ヶ月程度で受け取ることができます。収入の不安をなくし、治療に専念するためにもぜひ活用しましょう。
社会保険労務士法人アールワン 黒木 知子(くろきともこ)
日ごろから社会保険の手続き業務が数多く発生するお客様を担当させていただき、これまで実にさまざまな手続きに携わってきました。そこで常に痛感しているのは、事前の準備とお客様へのご案内の大切さです。プライベートでは飼い猫に癒されながら、日々の活力を養っています。
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