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安易な示談には注意!加害者がいる労災申請における「第三者行為災害」とは。

2018/10/30

安易な示談には注意!加害者がいる労災申請における「第三者行為災害」とは。 - 社会保険労務士法人アールワン | 東京都千代田区

こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの濵中(はまなか)です。

以前、徒歩で通勤途中の方が対向からやってきた自転車とぶつかってしまい、通勤労災となったケースがありました。その際に、事故にあわれた方はその場では何ともなかったため、すぐにその場を離れました。しかし、後になって痛みが増してきたため、病院を受診したとのことです。

通勤途中のケガだったため労災保険の申請を行ったのですが、このケースのように加害者(第三者)が原因となって労災保険の災害が起こった場合は、同時に「第三者行為災害届」の提出も必要となります。また、加害者(第三者)が絡む場合は、通常の労災申請とは違い、注意すべき点があります。

今回は、第三者行為災害が発生した場合の注意点をお伝えします。

 

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第三者行為災害とは?

労災保険の対象となる災害が起こったとき、加害者となる第三者がいる場合には「第三者行為災害」として扱われます。第三者行為によって災害・事故が起こった場合、治療にかかる療養費や休業補償といった費用の負担は、原因となった第三者が賠償する義務を負うことになります。

しかし、ケガをした労働者が労災保険から給付を受け取ると同時に、第三者からも療養費の賠償が行われると、二重で療養費を受け取ることになり、実際に要した金額より多くの金額を受け取ることになってしまいます。その調整のため、「第三者行為災害届」が必要となります。

第三者行為災害届を提出することで、以下の2通りのいずれかの方法で労災保険の給付金の調整が行われます。

A 先に労災保険から保険給付があった場合
→災害にあった労働者に給付された労災保険給付分だけ、労災保険(政府)が第三者に請求をする。

B 先に第三者から災害にあった労働者に対して、損害賠償の支払いがあった場合
→労災保険から支給される保険給付額から、第三者が労働者に対して支払った金額を控除する。

第三者行為災害届を提出しないと、保険給付が一時的に差し止めになってしまうことがあるため、必ず提出する必要があります。また、会社にとっては自社の労働者だけではなく第三者も絡む届出となるため、注意すべきポイントが多くあります。以下に、その代表的なものを紹介します。

 

ポイント① 加害者が不明である場合

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冒頭でお伝えしたケースのように、(すぐにその場を離れていたため)加害者の名前も連絡先も分からないといった場合でも、「相手方不明」として第三者行為災害届の提出が必要となります。

また、たとえば駅や電車内の人混みでケガをしたなど「人が大勢いて加害者の特定が難しい」という場合には、第三者行為災害届の提出は必要ありません。

 

ポイント② 自賠責保険等から給付が出る場合

自動車事故の被害者として自賠責保険等から給付を受けることができる場合、労災保険と自賠責保険等の給付のいずれか一方を先に受け取ることになります。

A 自賠責保険等から先に給付を受ける場合
→自賠責保険等の給付を受け取っているあいだ、労災保険からの保険給付は行われません。自賠責保険等の給付が終わった後に、支払われた金額以上に労災保険から給付がある場合に差額が支給されます。
※ただし、労災保険の休業給付は事故にあった時点の平均賃金の8割が支給されますが、この8割のうち2割は休業特別支給金となっています。そのため、自賠責保険等からの給付金額が労災保険の休業給付の金額を上回っていても、2割にあたる休業特別支給金は受け取ることができます。

B 労災保険から先に給付を受ける場合
→労災保険から先に給付された場合は、同時に自賠責保険等を受け取ることができず「労災保険から支給された金額」と「自賠責保険等から支給されるはずの金額」との差額をあとから受け取ることになります。労災保険からの給付より自賠責保険等からの給付の方がより早く行われるため、一般的には自賠責保険等から先に受け取る人が多いようです。

 

ポイント③ 相手との示談が成立した場合

相手との示談が成立した場合には、内容によっては示談成立後に労災保険からの給付は一切行われなくなります。ここで注意が必要なのは、治療が長引いて、示談で成立した損害賠償額以上の療養費がかかったとしても、示談後には労災保険からの給付は行われなくなるということです。その場合、症状が悪化して仕事を休業する必要が出たり、障害が残ってしまった場合でも、示談内容以外の損害賠償の請求権を放棄したものとして、労災保険の休業や障害に対する給付も行われなくなります。

このようなことなく労災保険から給付を受けるためには、示談の際に損害の全てを示談で補償する内容にせず「労災保険からの給付を受ける」旨を明記しておく必要があります。

 

第三者が絡む労災の場合には、労災保険だけでなく、民事の損害賠償も関係してきます。そこで示談を行った場合には、思いもよらぬ結果を招いてしまうケースもありますので慎重な判断が必要です。

冒頭の自転車事故のケースでは幸いなことに大事にはいたりませんでしたが、いざというときのためにも、第三者がかかわる災害が起きた場合の注意点は事前に確認しておくと安心です。また、そのような場面に遭遇したらどう対応すべきか、あらかじめ従業員お一人おひとりに周知しておくことが望ましいでしょう。

 

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濵中 伸介(はまなかしんすけ)のイメージ

執筆者

社会保険労務士法人アールワン 濵中 伸介(はまなかしんすけ)
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