「慣習」が、いつのまにか「権利」に。あなたの会社にも労使慣行はありませんか?
2018/11/10
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。これまではどうしても労働時間の短縮が実現できなかった弊社ですが、ついに先月は月間の労働時間が前年同月比で10%減となりました!そのためにやったことは、夕方4時から1時間おきにチャイムが鳴るようにオフィスの掛時計をセットしたことと、6時以降の残業をする場合は上司への業務内容の報告と承認が必要、というだけです。うれしい気持ちですが、これまではいったい何だったのか・・・。
さて、たとえば手当の支給や休暇の付与など、もともとの就業規則や雇用契約書に定めがないものであっても、職場でそれが反復継続された場合(労使慣行)にはその行為・事実が「労働条件」となってしまう場合があります。これは、とりわけ中小企業で見受けられることですが、それがある日突然会社のトラブルにつながる可能性があります。
そこで今回は「どのような場合に、労使慣行が労働条件として法的拘束力を持つのか?」についてお伝えします。
1.労使慣行が労働条件となる根拠は?
民法92条の「法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う」という定めがその根拠となります。
また、就業規則において明らかな定めがあるという場合でも、それに反する取扱いが行われていると、そちらが労働条件となってしまう場合もあります。
2.労使慣行が労働条件とみなされるポイント
実際の裁判例をみますと、次のポイントをすべて満たす場合にその慣習が労働条件であると認められています。
①同種の行為・事実が、一定の範囲で長期間反復継続して行われている。
②会社、労働者ともに、これを排除していない。
③特に、会社側において決定権や裁量権を持っている者が規範意識(※)を有している。
※長年繰り返されてきた慣行に規則として従う意識
たとえば「就業規則に定めていない報奨金が支給されているケース」について考えると
① その報奨金はかれこれ数年間、1年に1回のペースで定期的に支給されている。
② 報奨金支払いに対して、会社および社員のいずれからも異議申し立てや反対意見はなく、受け入れられている。
③ 社長や幹部社員も、報奨金の支給を前提として社員とコミュニケーションをとっている。
というような場合に、労働条件とみなされる可能性が高くなります。
3.どのようなものが労使慣行となるのか?
自社に労使慣行があるかどうかを調べるための「賃金」「労働時間」「休日・休暇」についてのチェックポイントは次のとおりです。
このようなことが継続的に行われている場合には、たとえ就業規則に定められている内容とは異なっていたとしても、それが従業員の当然の権利として主張される場合があります。また、裁判となってもその主張が認められる可能性が高いということです。
4.労使慣行を解消するためには
その内容が会社側にとって特段問題のないものであれば、あえて対応をしないということも考えられます。しかし、廃止をすると決めた場合には、労働契約の内容変更にあたるため、労働者への説明をしたうえで個々の同意を得ることが必要となります。その際に、それまでの慣行を廃止することへの「不利益感」を軽減するために、3カ月後あるいは半年後から実施するといった猶予期間を設けることも考えられます。
また、現場の管理者が日常の業務指示の中で、会社の意図しない取り扱いを許容するような言動を行っていないか、今一度確認を行っておくことも重要です。
これまで会社が続けてきたことをやめようとする際に、会社側が最も気にするのは法律的な側面とあわせて、やはり労働者の方の反応ではないでしょうか。(「みんなはどう思うのだろうか」「不満が噴出するのではないか」など)しかし、そのままの状態で時間が経過すればするほど、労使慣行=労働条件という状態が強化されてしまいます。社員の理解を得るために時間とエネルギーが求められるとしても、それを厭わずに「すぐに実行する」という決断が労使慣行の解決には必要です。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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