セクハラやマタハラにつづき、今後はパワハラの防止措置も企業に義務づけられます。
2019/02/20
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの黒谷(くろたに)です。昨年末に引っ越しをしたのですが、最近は引越し業界の人手不足や大手業者の受注停止などもあり、引越し難民が多数発生しているという話題も耳にするようになりました・・・。早めに決めて引っ越しておいてよかったと実感する今日この頃です。
2018年6月に厚生労働省が公表したデータによると、民事上の個別労働紛争の相談件数は前年度比で1%減の25万3005件だったものの、そのうちパワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」については前年比1.6%増の7万2067件と15年連続で増加しているうえ、内容別では6年連続最多でした。このような状況を受けて、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会の分科会は、2018年12月に企業にパワハラの防止措置を義務づけることなどを盛り込んだ報告書を了承しました。政府はパワハラ対策が強化された関連法改正案を2019年の通常国会に提出する予定です。
今回の記事では、今後のパワハラの定義や企業に求められる防止義務について紹介します。
これまでの法規制は?
ハラスメントの種類は現在50種類以上あるともいわれています。そのなかでも、たとえばセクシャルハラスメント(セクハラ)は「男女雇用機会均等法」、マタニティーハラスメント(マタハラ)は「育児・介護休業法」などで、企業に相談窓口の設置といった防止措置が義務づけられています。
しかし、パワハラに関しては定義も定まっていないうえ、特別法による規制がなく民法の損害賠償や刑法の刑事罰の法規などを適用しているのがこれまでの状況でした。
今後の「パワハラ」の定義は?
厚生労働省は検討会がまとめた報告書を踏まえ、
①優越的な関係に基づく
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動による
③身体的・精神的な苦痛
の3つの要素を満たすものを新たにパワハラの定義としました。
たとえば、上司が部下に対して業務上の必要範囲を超えて、部下の人格を否定するような発言をした場合にはパワハラに該当すると判断される可能性が高いでしょう。
「そんな仕事で給料をもらうなんて、泥棒と同じだ」
「こんなことも理解できないなら、もう来なくてもいいよ」
「仕事も遅いし字も汚いし、いいところがないね」
・・・etc
パワハラ関連の法規制の内容は?
今後の法制度の整備では、防止措置を講じることを法律で企業に義務づけることが中心となるようです。具体的な防止措置は今後策定する指針で示すとしていますが、次のような内容を企業に求めるものと考えられます。
◆加害者への懲戒規定を作り、周知・啓発すること
◆社内の相談窓口の設置
◆社内調査体制の整備(迅速な調査、被害者保護、加害者への懲戒等)
◆再発防止のために社員研修などを実施すること
◆被害の相談や事実関係の確認に協力をした従業員に対する不利益な取り扱いを禁止。また、その旨を周知すること
また、対策に取り組まない企業に対しては厚労省が行政指導を行い、行政指導に従わない場合は企業名を公表できる規定も設ける予定とされています。
ハラスメント禁止法の整備は、これまで泣き寝入りしていた被害者が救済を求める大きなきっかけになります。それだけではなく、社会全体がハラスメントを許さないという風潮が強くなれば、個々の企業の危機管理体制の不備が問題視される場面も増えていくことでしょう。
そして今後、ハラスメント問題に直面してしまった企業はその対応に膨大な労力を費やすことになります。パワハラは基本的に個人間の問題であるものの「被害者からの訴えがあったにも関わらず会社の対応が真摯に行われなかった」などの理由から、被害者側から会社に対しても損害賠償請求がされるケースはこれまでも少なくありません。
改正を目前にひかえた今のタイミングでこそ「ハラスメントに関する就業規則の見直し」や「実際にパワハラが起きて当事者から相談を受けた場合の対応策」また「パワハラに関する社内研修の実施」など、ハラスメント対策の見直しを検討してはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人アールワン 黒谷 文代(くろたにふみよ)
長く勤めた公務員を退職後、いくつかの社労士事務所で勤務しましたが、お客様に近い距離で仕事ができる現在の環境にやりがいを感じています。頼りにしていただけることを原動力に、お客様のご要望に誠心誠意対応することが私の信条です。落語、歌舞伎、文楽、大相撲など古典芸能の鑑賞が趣味ですが、チケットの入手が困難なことが最近の悩みです。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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