内定者の内定取り消しはできるのでしょうか
2019/10/10
こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。先日、台風で都内の交通機関がほぼ止まった朝、ビル内の清掃をされている方が、いつもどおりの時間に掃除をされていました。どのように出勤してきたのですかと尋ねたところ、「電車が止まることはわかっていたので、昨晩からビルの仮眠室に泊まらせてもらいました」とのこと。こうありたいと思った台風の朝でした。
早くも10月となり、多くの企業における新年の新卒入社の顔ぶれは決まっていることと思います。時間とお金をかけて選んだメンバー、そして昨今の人手不足から、少々のことで内定取り消しはあるはずもなく。とはいえ、先日お客様から内定の取り消しをしたい人物がいるとのご相談を受けました。内定取り消しを行うにはどのような条件が揃っていることが必要か、確認してみましょう。
1.そもそも採用内定者は労働者なのか
大学生でいえば3年次から4年次にかけて就職活動を行い、内々定通知を口頭で受け、その後文書による正式な採用内定通知がなされます。
その後、入社に関する誓約書などを提出するといった一連のプロセスをたどる採用の場合、採用内定者は「労働者ではないが、労働契約は成立している」状態であるとする考え方が判例上確立しているといってよいでしょう。
①条件付とは・・・雇入れに対しての特約(内定を取消すことができる事由)
②始期付とは・・・仕事を開始する始期(就労開始の日)
③解約権留保付とは・・・使用者の解約権が留保された労働契約
これにより、就労開始の日までに採用内定通知書に記載された内定取消し事由が発生した場合は、使用者は基本的には解約権を行使できることになります。
2.どのような場合であれば、内定取消しは認められるのか
採用内定の取消は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実があることが前提となります。
これを理由として採用内定を取消すことが、客観的にみて合理的であり、社会通念上相当であるものに限り認められるとされています。
例えば・・・
「卒業できなかった場合」
「必要とする書類の提出や免許・資格の取得ができなかった場合」
「健康を著しく害し、勤務不能な場合」
「面接内容や履歴書や誓約書等の書類に事実と重大な相違があった場合」
「刑事事件等、採用に差し支えるような犯罪を犯した場合」
等です。
入社前の研修に参加しなかったことを理由に内定取消しを行ったことについて、内定取り消しを認めなかったとする裁判例があります。
3.そしてどうしたか
お客様が内定を取り消したい理由は、内定者が行っていたインターネットへの不適切動画です。内定後の投稿であれば、採用内定時に知ることができなかった、といえますが、投稿は内定前から行われていました。内定を出していた側の責任を考慮しつつ、しかし投稿の内容は会社にとって許容できるものではなく、結局、内定取り消しをすることとしました。本人に会って取消しする理由を説明し、同意を得ることができました。
企業にとって、内定通知書に内定の解約理由や入社までに遵守すべき事項を定めておくことは必須です。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
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