こんにちは。東京都の社会保険労務士法人アールワンの中村（なかむら）です。昨年末、私の不注意で負傷してしまったのですが、一緒に働く仲間の理解と支援で、在宅勤務で休まず仕事ができました。このとき、かけてもらった「お互いさま」という言葉で、後ろめたさが薄らぎ心も温まりました。

令和７年は、3 人に1 人が65 歳以上、5 人に1 人が75 歳以上になるといわれています。このような背景もあり、４月１日から事業主には介護離職防止策として、介護と両立して働くための相談体制の整備なども義務化されます。

そこで、今回は、従業員から相談を受けるにあたり、知っておいていただきたい現状をお伝えします。

「仕事を辞めず、自分の人生（キャリア）を大切に」

これは、知人のケアマネージャーの言葉です。家族の介護をしたいという思いは尊重すべきですが、働く人のその後の人生を壊さないことも大切です。

以前は「介護は家族がつきっきりでする」という考え方もありましたが、今は制度を活用し「働きながらできる介護」を考える時代です。働く家族の事情を汲み取り、ケアプランを考えてくれるケアマネージャーもいます。介護をしないというのは、親や家族を見放すことではありません。つきっきりの介護は双方が疲弊し衝突する可能性もありますが、介護サービスに頼ることで適切な距離を保て、介護される側も快適に過ごせるということです。

働く人が両立を継続していくには、できるだけ日常生活を変えないことです。その一方で、家族の状態に対応しやすいように、自分で業務を計画したり調整できるような自己裁量を持たせておくことです。職場にこのような配慮をしてもらえたら、現状の介護制度内での両立は十分可能です。

事業主は、相談することへの心理的ハードルを下げる取組を

企業への調査で、管理職が介護の両立支援制度を利用したことによる昇進・昇格に「影響する」「やや影響する」「わからない」という回答は約半数ありました。

今もこのような空気が残っており、民間調査でも、介護について上司に相談しない人は約３割、人事に相談しない人は５割近くいるという結果でした。このような現状からも、相談が無いからといって「介護で悩んでいる人はいない」と考えるのは早計です。

管理職に限らず誰でも、働く時間などの制約が生じ、周りから「使いにくい存在」と思われてしまうことや、昇進への影響を恐れます。マイナスイメージを与えそうな家庭の事情は言いたくないですし、介護の負担を1人で抱え、相談できずに離職してしまうことも理解できます。

法律でも、介護休業の申し出をしたことや取得したことを理由として、解雇その他「不利益な取扱い」は禁止されています。４月からの制度導入にあたり「介護休業を取得しても不利益な取り扱いはしない」というメッセージを従業員に発信するところから始めてみてはいかがでしょうか。

望まぬ離職者を出さないために

介護離職者は年間約10万人います。厚労省の委託調査で、介護離職の理由で最も多かったものは「両立が難しい職場」でした。半数以上の方は「続けたかった」とも回答しています。

「両立できる職場環境」を考えたときに、冒頭に記載した私の在宅勤務のように、不測の事態が起きたときの同僚の働きかけは大きいと思います。私は「お互いさまだから、今は甘えていいんですよ」という言葉に救われました。不十分な状態を許容してもらえた気持ちで周囲の視線を気にせずにいられ、在宅の孤立感も和らぎました。

介護離職者の年齢は中高年に限りません。高齢者の割合が年々増えていく中で、祖父母を介護する若年者も増えていくでしょう。全員が介護制度やサービスを知り、自分にも起こる問題であると思えれば、相手が安心できる声かけや助け合いができ、望まぬ離職は防げます。

アールワンでは、介護休業制度や、仕事と介護の両立支援に関するご相談、従業員の皆さまへの研修実施なども承っています。