内定した時点で、従業員なのでしょうか?そして、内定を取り消せるケースとは?
2015/01/20
こんにちは。社会保険労務士法人アールワンの高澤(たかさわ)です。
厚生労働・文部科学両省は、2015年春卒業予定の大学生の就職内定率は68.4%と発表しました。これは、前年同期比4.1 ポイント上昇で「改善は4年連続、6年ぶりの高水準」とのことです。業績回復や人手不足を背景に、企業の採用意欲が高まった結果といえます。
一方、このような状況のなかで、来春の入社を控えた学生の内定取り消しのニュースも巷をにぎわせているようです。もしも、内定取り消しが不適当であった場合は?それは言うまでもなく、賠償の発生や、社会的信用の低下など、会社にとって大きなリスクになりえます。
それではいったい、どのようなケースであれば内定取り消しは認められるのでしょうか?
採用内定者は「労働者」なのでしょうか?
大学生でいえば、一般的には3年次から4年次にかけて就職活動を行い、内々定通知を口頭で受け、その後に文書による正式な採用内定通知がなされます。さらに、入社に関する誓約書などを提出するということもあるでしょう。
そのような一連のプロセスをたどる場合において、
採用内定者は「労働者ではないが、労働契約は成立している」状態である
とする考え方が、判例上でも確立しているといえます。下の図もご覧ください。
①「条件付」とは ・・・雇入れに対しての特約(内定を取消すことができる事由)
②「始期付」とは ・・・仕事を開始する始期(就労開始の日)
③「解約権留保付」とは ・・・使用者の解約権が留保された労働契約
これはつまり、「②の就労開始の日」までに採用内定通知書に記載された「①の内定取消し事由」が発生した場合には、使用者は基本的には「③の解約権」(内定取り消し)を行使できることになります。
それでは、①にあたる「内定が取り消しできる条件」とはどのようなものでしょうか?
内定取消しが認められるケースは?
採用内定の取消ができる条件として、
「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実がある」
ということが前提となります。
そのうえで、これを理由として「採用内定を取消すことが、客観的にみて合理的であり、社会通念上相当である」というものに限り、認められるとされています。
例えば・・・
「卒業できなかった場合」
「必要とする書類の提出や免許・資格の取得ができなかった場合」
「健康を著しく害し、勤務不能な場合」
「面接内容や、履歴書や誓約書等の書類に、事実との重大な相違があった場合」
「刑事事件等、採用に差し支えるような犯罪を犯した場合」
などです。
会社としては、あらかじめ入社誓約書等に「解約理由」や「入社までに遵守すべき事項」を定めておくことが重要です。
内定取り消しには慎重な判断が必要
それでは、「入社前の研修に参加しなかった」という場合はどうでしょう?
これには実際の判例があります。
入社前研修への参加に事前の合意があったとしても、学業への支障など合理的な理由で研修参加をとりやめたいと内定者が申し出た場合は、「企業は研修を免除する義務を負う」とし、内定取り消しを認めませんでした(東京地判平17.1.28 宣伝会議事件)。
他にもさまざまなパターンがありますが、少なくとも「会社側の心象のみで、簡単に内定を取り消すことはできない」ということは間違いないでしょう。「経営悪化」というシビアな理由による内定取り消しであっても、その適法性は問われるためです。
そして、そのようなリスクを犯さないためには、「採用」をいっそう重く捉えて、経営計画や人員計画をしっかりとたてたうえでの採用活動を行うことが大切だといえます。
社会保険労務士法人アールワン 高澤 留美子(たかさわるみこ)
社会保険労務士事務所を開設して、歳月がたちました。最初の事務所は自宅の子ども部屋でした。お客様と本音でつながっている「パートナー」になれるよう、日々研鑽しています。モットーは「人間万事塞翁が馬」です。
140社の人事労務をサポートする、東京都千代田区の社会保険労務士法人アールワンが提供。人事労務ご担当者の方の実務に役立つ情報をお届けします。
アールワン作成のお役立ちページ |
---|